2011年07月15日

カセットプラント ファクトリー通信 vol.0005 バックナンバー  2008/02/21発行

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

   カセットプラント ファクトリー通信 vol.0005  2008/02/21

        

               
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

●目次
  【1】インド ニューデリー便り
  【2】展覧会情報

===================================
【1】インド ニューデリー便り
===================================
10月12日〜12月15日までインドで開催された『日印交流年事業「消失点−日本
の現代美術」展』。デリー会場(期間:10月12日〜11月11日)では山口啓介氏
の代表的な絵画作品及び新作絵画とカセットプラントが出展されました。
それに関連して開催されたワークショップ(10月14日〜18日)、カセットプラ
ント作品の準備作業について、今展の現地スタッフとしてサポートされた
鶴留聡子さんにレポートしていただきました。

          ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○


旅するカセットプラント、ニューデリー編


近頃は、どこの国の都市に行ってもだいたい同じような光景が広がっていると
言うひとがいる。ある程度、事実だと思う。けれど、街の細部によく目を凝ら
すと、いろんなひとが、少しずつ変わりながら、その土地特有のやり方で生活
しているのを発見することができる。それはただ窓際でぼーっと眺めているよ
りも、その「細部」に近づいていったほうがはっきりと気がつく。
昨年10月、国際交流基金が主催した『消失点−日本の現代美術』展に山口啓介氏
のカセットプラントが出展され、めでたくインド上陸した。私はニューデリー
事務所のスタッフとして、そのお手伝いをすることになった。残念ながらこれ
までに世界の他の都市で行われたカセットプラントの作品を目にしたことはな
かったのだが、事前に頂いた作品の写真を見ただけで、圧倒的な存在感にただ
もうゾクゾクしてしまった。それが、ニューデリーの、かつてジャイプール藩王
の宮殿であったニューデリー国立近代美術館に飾られると、いったいどんなこと
になるのだろう、と。
今回は、カセットプラントがインドでどのようにして出来上がったのかに焦点
を当ててお伝えしたいと思う。
プロセス第一弾は、花を集め、それをシリカゲルを使いドライフラワーにする
作業。これは、展覧会オープニングの2ヶ月ほど前に開始した。ヒンドゥー寺院
で信者が神への献花としてよく使われるマリーゴールドやジャスミンはよく街中
でも見かけるのだが、急速に経済成長中といえども、この国ではまだまだ、衣
食住に事欠くひとが大半だ。日本のように、大小色とりどりの花が揃った"ぜい
たくな"花屋は少ない。食うにも困る生活をしているひとが、バラ一本に20ルピー
(約60円)は出せない。庶民的な食堂に行けば、一食100円以下で充分満腹になれ
る国である。だが幸いなことに、ニューデリーはインドの首都であり、外交官や
一般企業の外国人がたくさん住んでいる。そのうえ、金持ちのインド人も比較的
まとまった数が集まっているおかげで、インドのなかでは花屋が充実していると
ころだと言えると思う。これまでインドで「花っけ」のない生活をしていた私は、
初めて足を運んだ花屋で、ユリが1本70ルピー(約210円)?!と、びっくりした
わけであるが、ここでも、最近ますます広がる所得格差を実感し、花も同じな
のかと考え込んでしまった。
インドは階級制度が今も根強く残っている。階級は身分別および職業別にわか
れており、その影響で、同業者同士が集まって商売をする傾向にある。花屋も
然り。こんなに集まって商売が成り立つのか不思議だが、私が今回のカセット
プラント作りでお世話になった花屋さんも、両隣5件はすべて花屋。みな一列に
並んで仲良く商売をしている。どこもほとんど同じ雰囲気、同じ値段で、普段
なら選ぶ基準はないところだが、今回は店員の"良心"を比較検討した結果、1件
の店と話をつけた。店名は忘れてしまったが、その花屋で、ムケーシュ君という、
若くて好感度の高い店員さんと"運命的に"出会ってしまったのが始まりである。
彼は英語があまり話せないので、私の片言のヒンディー語でのコミュニケー
ションである。先ほど言ったように、インドは階級制度の影響で、だいたい、
親から職業を受け継いでいることが多く、日本やヨーロッパのように、「綺麗
な花に囲まれた花屋で働きたい」という希望や使命感を持って花屋で働いてい
るひとは、インドにおいてはほぼ皆無であると思う。ムケーシュ君がどういう
経緯でこの花屋で働くことになったのかは聞かなかったが、彼も一見そのよう
なタイプに見えた。つまり、店先の椅子に腰掛け、一日をぼーっと過ごしながら、
客が来ると突然がばっと立ち上がり、客引きをはじめるタイプ、という意味で
ある。しかし、持参した過去のカセットプラントの写真を見せながら彼にお願
いすると、ふたつ返事で「じゃあ、朝8時30分頃お店に来てくれれば、前日売れ
残った花を分けてあげるよ」という。近所の食料品店では、店先のいらなく
なったダンボールでさえ、お金を払って買わなくてはいけないこの国で、タダ
で花をもらうことができるのか?と不安に思っていたので、これは意外であった。
ちなみに、それに気を良くした私は、他のお店だって、店先の道端にゴミと混
じって捨てられている花びらくらいなら分けてくれるかな?と思って、聞いて
みる…前に、ふらふらと拾い始めてしまったのだが、ムケーシュ君とは天地の
差で、「シッ!売りものじゃないんだよ。返せ!」と、取り合いになる始末。
これでは私は物乞い以下ではないかと落ち込むも、すぐに気を取り直す。
当初は、好青年ムケーシュ君がくれる花のなかには、ストレッチア(極楽鳥花)
など、綺麗だけど大きすぎて使えない…という花も多く混じっていたのだが、
次第に向こうも要領を理解してくれるようになる。私が寝坊して、いつもより
遅めに店に着くころには、大きなビニール袋に、カセットプラント"規定サイズ"
のものを用意して待っていてくれたほどである。その親切に感動し、お花を頂く
お礼に(そして、いじわるな隣の花屋に見せ付けるため)、お菓子の差し入れ
などをすると、次の日はどーんと量が倍になっていることもあった。しかめっ面
の店長に隠れて、まだ売れる花を混ぜてくれたりしていたようである。
以上のように書くと、花集めはわりと順調に(?)進んだように見えるが、集め
る必要のある花の数が多いので、これで足りるのだろうかと不安に思うことが
多かったのも事実である。近所の庭先の花を見ると「カセットプラントにぴっ
たりだなぁ」と指をくわえて立ち止まってしまうことがあった。山口啓介氏の
奥様、作子さんによるとこれはれっきとした「カセットプラント症候群」だ
そうである。
プロセス第二弾は、皆様もご存知のドライフラワー作りである。これは当初、
自宅でひとりぼそぼそとやっていたのだが、慣れないせいもありひとつひとつ
に時間がかかってしまっていた。目標数の達成が難しいと気がつき、事務所の
職員たちに手伝ってもらうことにする。普段暇そうな清掃人たちは珍しがって
楽しんで作業をしてくれたし、彼らの意外な一面を発見することにもなった。
実は今回私がこのカセットプラント作りのお手伝いができて一番嬉しかったのは、
このドライフラワー作りで築いた、事務所の清掃人との絆である。なんでも
かんでも階級性に話を結びつけてしまうが、インドの階級のなかでも、清掃を
する階級の人々は、社会の最下層に位置づけられている。教育もきちんと受けて
いないし、英語はほとんど話せない。そのせいもあり、彼らとのコミュニケー
ションはあまりなかった。仕事に対する責任感やモチベーションがほぼ皆無
なので、彼らに好感を抱くこともなかったというのが正直なところである。
それなのに、ドライフラワーの作業をお願いすると、こちらがびっくりする
くらい機転を利かせて、てきぱき働いてくれるし、手先も器用である。私が
ついつい作業を忘れてしまった日など、向こうから「今日はいつやるのか。もう
そろそろ先週作った分が乾燥しているはず。」と教えてくれることもあった。
半分枯れているユリや、発色が悪くて使えなかったバラは、彼らが妻へのプレ
ゼントとして家に持ち帰り、再々利用された。家庭円満をも導く(?) カセット
プラントの威力は素晴らしい。
当初は、必要な数の花が揃えられなかったらどうしようと常に不安だったのだが、
そんなわけで、彼らのおかげで展示およびワークショップ用のドライフラワー
を用意することが出来た。その後、山口氏が見事に展示をされたカセットプラ
ントのインスタレーションは、インド人の観客の注目の的であったのは言う
までもない。ニューデリー展では、カセットプラントを入れたガラスケースの
上に、蓮のドライフラワーを天井から吊るしていたのだが、蓮の仏教との関わり
も含め、オープニングでは、山口氏の説明を、仏教発祥の地・インドのひと
びとは深く聞き入っていた。山口氏のカセットプラントは、歴史と土地とひとを
これからもつないでいってくれるのだろう。

鶴留聡子

yamaguchi keisuke カセットプラント1

yamaguchi keisuke カセットプラント2
中からライディングされています


*ワークショップフォトライブラリー*

カセットプラントワークショップ ニューデリー1

カセットプラント ワークショップ ニューデリー2

カセットプラント ワークショップ ニューデリー3

カセットプラント ワークショップ ニューデリー4

カセットプラント ワークショップ ニューデリー5


===================================
【2】展覧会情報
===================================

【出版関連】

●小原流 「挿花」2 No.687
アーティストのことば 現代美術と花(2) 山口啓介
24‐25頁
問合せ先:小原流編集課
henshu@ohararyu.or.jp
TEL03-3499-1203


最近の出版物

●「版画芸術」138号 冬号 阿部出版
☆アトリエ・インタビュー「人間を描くように植物を描いてきた」
  山口啓介 (聞き手:辺見海)64-69頁。 
http://www.abepublishing.co.jp/

●夜の時代に語るべきこと ソウル発「深夜通信」/徐 京植(ソ・キョンシク)著
毎日新聞 出版
装画 山口啓介「歩く船」/装幀 間村俊一

●「おのごろじま」日和聡子(ひわさとこ)著/詩人 幻戯書房
装画 山口啓介(「管:動物化された根」1999年)/装幀 間村俊一
http://www.genkishobou.com/


----------------------------------------------------------------------

 編集   カセットプラント ファクトリー通信編集部 
 発行   カセットプラント ファクトリー事務局

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
copyright(C)2007-2008 カセットプラント ファクトリー All right reserved.

   
posted by cpf at 04:16| Comment(0) | ファクトリー通信
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: